海上挺進戦隊戦没者慰霊碑-2023年(広島県江田島市)
4月30日、江田島市幸ノ浦にある海上挺進戦隊戦没者慰霊碑を訪れました。はじめて訪れたのが13年前のこと。それから数回訪れていますが、紹介するのは久しぶりです。
船舶練習部第10教育隊
戦況が明らかに劣勢となっていた昭和19年、陸軍は上陸を企図する敵船団に対し海上から奇襲をかける構想をたてます。そのために開発された"○レ(四式肉薄攻撃艇)"による攻撃を実施するための訓練を行ったのがこの幸ノ浦に作られた"船舶練習部第10教育隊"です。
碑文を記します。
昭和19年戦局の劣勢を挽回すべく、船舶特別幹部候補生の少年を主体とし全陸軍より選抜せる下士官、将校の精鋭を以て編成されたる陸軍海上挺進戦隊は、250キロ爆雷を装備せるベニヤ製モーターボートによる一艇以て一船を屠るを任務とし、此処幸之浦の船舶練習部第10教育隊に於て昼夜を分かたぬ猛訓練に励み、第1戦隊以下30ケ戦隊が同年9月以降続々沖縄、比島、台湾への征途にのぼり、昭和20年1月比島リンガエン湾の特攻を初めとし同年3月以降の沖縄戦に至る迄壮烈鬼神も泣く肉迫攻撃を敢行しその任務を全うせし者或いは戦局の赴く所己むを得す挺身陸戦に転じ奮戦せし者を含め戦闘参加の勇士2288名中再び帰らざる隊員実に1636名の多きに達し挙げたる戦果敵艦船数10隻撃沈、誠に赫々たるものありしも当時は秘密部隊として全く世に発表されざるままに終れり。而して又第二次訓練再開されるや第31戦隊以下12ヶ戦隊が九州、四国、紀州の各地に展開し米軍の本土上陸に備え更に第41戦隊以下11ヶ戦隊は終戦時当地に在り原爆投下直後の広島市民の救出残骸の整理に挺身活躍同年10月艇を焼き部隊を解散せり。此等教育期間中の殉職者も数10名に及び又各戦隊に配属されたる基地大隊も戦隊出撃後は陸戦に殉じ殆んど生還せるを得ず。その運命を共にせるものの如し。
祖国の為とは言え春秋に富む身を国に殉ぜし多数の若者の運命を想う時誠に痛惜の念に堪えず。ここにその霊を慰め後世に伝える為この碑を建立するものなり。
昭和42年12月3日
元教育隊隊長 齊藤義雄書
碑文にある"昭和20年1月比島リンガエン湾の特攻"では駆逐艦3隻大破・2隻中破、輸送船1隻大破、貨物輸送船1隻中破、歩兵揚陸艦2隻沈没、戦車揚陸艦1隻沈没・5隻大破・1隻中破が確認されています。
また、原爆投下直後の救護活動により被爆された隊員も少なくありません。その方々の多くは原爆症により亡くなったそうです。
船舶練習部第10教育隊で訓練を受けた者たちは皆若者、もっといえば少年たちです。この穏やかな海で猛訓練を行ったのちに任務を全うし、多くの若者が命を落としました。もうそんな時代がやってこないように、そんな時代にならないようにしないといけません。
○レについて
○レ(マルレ)について少し記しておきます。詳細なちゃんとしたサイトで情報を得てください(^^(^^;。○レの正式名称は四式肉薄攻撃艇といいます。その存在を秘匿するために連絡挺とされていました。
下の写真は江田島のふるさと交流館に展示されていた○レの模型(現在展示されているかは不明。また、この写真を撮った2012年は写真撮影不可となっていませんでしたが、今は不可となっているかもしれません)です。
昭和19年5月に陸軍に船艇研究機関として第十陸軍研究所が開設されました。連絡艇は昭和19年6月に開発がはじまり、翌7月には甲一型として完成します。その後、爆薬を前装式とする甲三型、甲一型を改良した甲四型、更に小型化した甲六型の試作を行っています。船体のみでなく、洞窟などの秘匿している場所から海上に運ぶための運搬具なども開発されました。
また第十陸軍研究所では甲型のほかにも半潜攻撃艇の丁一型、高速攻撃艇の丁二型、ロケットを使って加速する戊一型、戊二型、ロケット砲を持つ己二型などさまざまな連絡艇が研究されました。
それにしても… これらの兵器で本当に戦局を挽回できると考えていたのだろうか? もちろん、これらの兵器で戦局を少しでも膠着させて時間を稼ぎ、ナニカ大きな計画を準備することはできないことはないと思いますが、当時そんな戦略があったようには思えません。
こんな戦争で命を落とした若者たちがいたことを忘れないように。
参考にした書籍など
- 陸軍船舶戦争 松原茂生/遠藤昭 戦誌刊行会
- 「4 連絡艇研究中間報告」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010851100、研究報告綴 昭和19年度(防衛省防衛研究所)
- 「整理番号10技研仕第18号 昭和20年4月3日 連絡艇甲4型仕様書(案)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020299600、陸軍舟艇関係仕様書綴 昭和19年度(防衛省防衛研究所)
- 「13 連絡艇第3回試験要報」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010840100、試験報告(要報)綴 昭和19年度(防衛省防衛研究所)
- 「167.兵政造密第1342号 連絡艇整備ニ関スル件通牒 昭和20年4月4日」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14010956000、発来翰綴 昭和20.1~3(防衛省防衛研究所)
- 「10技研計第1号(◎舟2) 連絡艇研究実施計画書 他20件(1)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020291900、研究実施計画 昭和19年(防衛省防衛研究所)
- 「10技研計第1号(◎舟2) 連絡艇研究実施計画書 他20件(2)」JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C14020292000、研究実施計画 昭和19年(防衛省防衛研究所)
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